在宅で看取りはできる?高齢者が「自宅で死ぬ」ことのメリットと問題点

在宅での看取り
NHKスペシャル「大往生 我が家で迎える最期」の一場面

2019年冬に放送されたNHKスペシャル「大往生~我が家で迎える最期~」をご覧になった方はいらっしゃいますか?

「自宅で死を迎える」とはどういうことなのか、その現場をありのまま伝える内容は視聴者の心に深く訴えかけ、「看取り」について考えさせられる番組でした。

「看取り」についての詳しい解説は、「看取りとは?穏やかでその人らしい最期を見守るケアを解説」をお読みください。

多死社会において、もはや死はタブー視するものではなく、本人や家族が話し合って納得し、きちんと正面から向かい合わなければならないものとなったのです。

在宅で看取りを望む高齢者が多い

このように「病院や老人ホームは嫌だ。最期はできれば自宅がいい」と考えている方がもっとも多いんですよ。

高齢者を在宅で看取ることは家族の不安が大きい

しかし在宅で看取るのは、家族のサポートが不可欠です。

体力的にも精神的にも負担の大きい「看取り介護」に本当に耐えられるか、不安を感じる方も多いでしょう。

そこでこの記事では、高齢者を在宅で看取るメリットやデメリット(問題点)、看取りの方法や手順について解説します。

高齢者を在宅で看取ることは可能?本人の意向を尊重した最期

自宅で最期を迎えたいという人の調査
人生の最終段階における医療に関する意識調査 (厚生労働省)
※認知症が進行し、身の回りの手助けが必要で、かなり衰弱が進んできた場合

人生の最終段階における医療に関する意識調査(平成30年)によると、「回復の見込みがないと医師に診断された場合、どこで最後を迎えたいか」との質問に、6~7割の方が「自宅」と回答しています。

「自宅で最期を迎えたい」理由は、次のとおりです。

 

自宅で最期を迎えたい理由

  • 住み慣れた場所で最期を迎えたいから
  • 最期まで自分らしく好きなように過ごしたいから
  • 家族との時間を多くしたいから
  • 最期は家族に看取られたいから

 

確かに、「冷たい病院のベッドの上で、知らない人に世話をされながら死にたい」と望む人は、少ないことでしょう。

しかし実際に、在宅で死を迎えることは可能なのでしょうか?

 

在宅での看取りは家族の支援が必要!訪問看護の活用で不安を少なく

在宅での看取りには家族の協力が必要

「在宅での看取り」を希望している人が多い一方で、それが実現できない要因の一つに、家族への負担があげられます。

「本当に家族で看取ることができるのか?」

「臨終の場で、どう対処すればいいのか?」

「いざというとき取り乱したり、家族に辛い記憶が残ってしまうのではないか」

介護や医療現場に居合わせることの少ない普通の一般家庭で「看取る」ことは、精神的にも体力的にも不安があることでしょう。

このようなとき支えとなるのが、医療や介護の専門家です。

ケアマネージャーや訪問介護、ヘルパー、主治医などの専門家と日ごろから連絡を密にし、「困っていることはなにか」「不安や疑問点はなにか」を、相談しましょう。

自宅での看取りを実現するにあたり、特に大きな役割を果たすのが「訪問看護ステーション」や「訪問看護師」の存在。

訪問看護ステーションの利用者は、自宅で最後を迎えられるケースが多いというデータもあり、在宅で看取りをと希望する場合は、欠かせないサービスとなっています。

在宅での看取りは家族の支援が不可欠ですが、家族の力だけでは難しいのも現状。

かかりつけ医や訪問看護など、在宅医療サービスも積極的に利用していきましょう。

 

「地域包括ケアシステム」の構築が在宅での看取りを強化する

在宅の看取りは、やはり家族にの協力が必要になります。

しかし家族や身内がいない一人暮らしの高齢者は、「自宅で最後を迎える」という希望を叶えることができないのでしょうか?

そこで推進されているのが、「地域包括ケアシステム※」の構築です。

地域包括ケアシステムとは

団塊の世代が75歳以上を迎える2025年をめどに、高齢者ができる限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを最期まで続けることができるよう構築が推進される「地域の包括的な支援・サービス提供体制」のこと

在宅での看取りを実現するために不可欠な地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステムの姿(厚生労働省HPより)

日本は多死社会を迎える一方で、少子化と核家族化がさらに進むことが予測されています。

このようなシステムを充実することにより、高齢者のみの世帯や、一人暮らしの人でも安心して自宅で最期を迎えることができるようになることを願うばかりです。

できるだけ多くの人が、自分の希望通りの場所で最期を迎えたいという願いが叶うよう、サポート体制を充実していってほしいですね。

 

在宅で看取ることのメリットとデメリット(問題点)

在宅で看取ることには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

ここでは在宅での看取りに関する、メリットとデメリット(問題点)について解説します。

まず在宅で看取ることのメリットは、次のとおりです。

 

在宅で看取ることのメリット

  • 本人の住み慣れた環境で療養できる
  • 自分らしい普段通りの生活ができる
  • 食欲や不眠の悩みが改善されることがある
  • 本人の希望を叶えることで本人や家族に満足感が得られる
  • 家族の死に立ち会うことで、生きることや死ぬことを考えさせられる
  • 施設に入所するより金銭面での負担が少ない

 

このような大きなメリットがある一方で、デメリットや問題点もあります。デメリットや問題点は、次のとおりです。

 

在宅で看取ることのデメリット

  • 家族や同居者の協力が必要
  • 看取る人の精神的な負担になる
  • 自宅で介護する人が必要になる

 

たとえ「自宅で死にたい」という希望が強くあったとしても、安否確認をしてくれる人や組織とつながりがなくては、亡くなったとき遺体が何日も放置されるようなことにもなり、非常に痛ましい結果を招いてしまいます。

家族などと生活を共にすることが難しい場合、自宅での看取りは慎重に進める必要があるのです。

また自宅で看取りをする場合、寝たきりの高齢者の介護をする必要があり、家族や同居人にとって心身ともにとても消耗するもの。

「親を自宅で最期まで面倒見たい」という責任感は立派ですが、家族の生活まで崩壊するようなことになっては元も子もありません。

危機的状況になる前に、ケアマネージャーなどと相談し、施設への入所やショートステイの活用を検討することも視野にいれ検討しましょう。

 

在宅で看取ることの注意点!看取りは「救急車を呼ばない」という選択

「在宅で看取りを」と決心したとしても、いざ危篤状態となり、呼吸が今にも止まりそうだというとき、動転してつい119番に電話してしまいそうになりますね。

しかし「看取り」を希望することは、救急車を呼ばないという選択であることを忘れてはいけません。

救急車を呼び、病院に救急搬送されれば、心臓マッサージや人工呼吸器、点滴、カテーテルなどの装着が行われ、できうる限りの延命措置が取られます。

いったんこの状態になってしまうと、延命装置を取り外すことは倫理的に難しくなり、ふたたび呼吸が停止するまで何日も病院で過ごすということになってしまうのです。

すると結局のところ「死ぬときは病院より自宅で自然に…」という本人の願いとは、かけ離れた最期となってしまうのです。

緊急の際は救急車を呼ぶのではなく、かかりつけ医や訪問介護ステーションなどに連絡しましょう。

家族は落ち着いて行動できるよう、容体が急変したらまずどこに連絡すればよいのか、日ごろから家族が情報を共有することが大切なんです。

 

POINT
      
  • 救急車を呼ばない
  •   
  • 急な状態の変化に備えておく
  •   
  • 緊急の連絡先は家族で共有する
  •   
  • 臨終時に現れる状態変化を知っておく

 

在宅での看取り、家族がしてあげられることとは?

そもそも看取りとは、過度な延命治療をすることなく、日常の延長線上にあるものとして最期を迎えること。

「特別に何かをしてあげる」という気持ちは必要ありません。

できるだけ本人が望むように、自由に生活させてあげるのが一番です。

在宅で看取ることを決心した場合、施設に入所するよりもずっと毎日を自由に、気ままに生活することができるのですから、そのメリットを十分に活用しましょう。

在宅で看取りをする場合、具体的に、家族や同居人はどのように本人に接してあげるのがよいのでしょうか。ポイントは次のとおりです。

 

  • できるかぎり好きなように時間を過ごしてもらう
  • 食事や入浴、排せつ、着替え、身だしなみ等の介助をする
  • 笑顔で会話するなど、いつもどおり接する
  • できるかぎり誰かがそばにいるようにする
  • 最期まで人格のある一人の人間として接する
  • マッサージなどでスキンシップをする

 

このように、特別なことは何も必要ではありません。

家族でいつも通りの日常を過ごしながら、お別れの時が来るまでゆっくりと過ごしてあげましょう。

 

在宅での看取りは誰が死亡確認をする?死亡時の手続き

人が亡くなるということは、具体的に「呼吸と心拍が停止し、瞳孔が開いた状態になる」ことです。

家族がこれを確認したら、かかりつけ医や訪問看護ステーションに連絡し、医師によって死亡診断書が書かれます。

死亡後、看取った人がやるべきことは、次のとおりです。

 

看取った人がやるべきこと

  1. 生前と同じように言葉をかけ、最期のお別れをする
  2. エンゼルケアをする
  3. 葬儀社・お寺の手配
  4. 公的手続きを忘れない

 

家族や親族で最期のお別れのためにゆっくり時間を割くことができるのは、在宅で看取りをすることの大きなメリットの一つ。

ご遺体には、精いっぱい生き抜いたことに対するねぎらいの言葉をかけてあげましょうね。

遺体は死後数時間で、死後硬直が始まり、やがて死斑が出現します。

遺体の清拭や着替え、死化粧などのエンゼルケアをし、亡くなった方が安らかに旅立てるよう身なりを整えてあげてください。

4番の、死後必要になる公的手続きについて詳しい解説は「死亡後の手続きチェックリスト!忘れると大変なことになる要注意事項」をお読みください。

 

エンゼルケアって具体的には何をどうするの?

エンゼルケアは、亡くなった方の身体を清拭し、死装束に着替えさせ、死化粧を施すことを言います。

エンゼルケアは、遺体の見た目を整えるほか、病気の感染を予防するといった目的もあります。

エンゼルケアのおおまかな手順は、次のとおりです。

 

エンゼルケアの手順と方法

  • 口腔内のケアをする
  • 目や口を閉じさせる
  • 遺体につけられたテープやガーゼなどを外す
  • 胃の内容物を出す
  • 身体にたまった便を排出させる
  • 身体の清拭をする
  • 生活な衣服に着替えさせる
  • 頭髪を整える
  • ひげそり、爪切りをする
  • 身体をまっすぐにする
  • 両手を腹の上に重ねておく
  • 死化粧をほどこす

 

エンゼルケアは亡くなった方の体裁を整えるばかりでなく、エンゼルケアを施す遺族の心の整理をする助けにもなります。

エンゼルケアは、病院や施設で息を引き取ったとき看護師や介護士が行いますが、在宅で息を引き取ったときは遺族が行います。

遺族で行うことが難しい場合、葬儀社や納棺師に依頼することもできます。

こころを込めて、故人に対する最期のお世話をしてあげてくださいね。

 

在宅で看取りはできる!地域社会と連携し満足のいく最期を

この記事では、在宅で看取りをすることについて解説してきました。

人はいつか必ず亡くなるものです。

痛みや苦しみが少なく、愛する家族に囲まれ、住み慣れた我が家で、自然な形で死を迎えることができるならば、その人にとってこの上ない満足でしょう。

しかし満足のいく死を見守るためには、周りの人びとの支援が必要になります。

家族の力だけでは、核家族化が進む現代では限界もあります。

地域の制度やサービスをさらに充実させ、在宅での看取りができる環境づくりを構築していってほしいものですね。